一生、青春を
一生、青春を


 以前勤めた事務所のボス、安藤忠雄氏の仕事机の上に、丸い置時計が飾られていた。 美術用語で言うところのミッドセンチュリースタイルで、まさにレトロフューチャーという形状をしている。 新米所員として指導を受けた折に、この時計についてのエピソードを聞かされた。

 「この時計を知ってるか?マンジャロッティの作品*や。私の若い頃に一世を風靡した、当時憧れたイタリアのデザイナーや。 私は今でもこの時計を机に置いて、若い頃の目標を忘れんようにしとるんや。」

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 大阪の経済や文化の中心地である中之島に、安藤忠雄氏の設計で『こども本の森 中之島』が完成した。 土地は大阪市からの提供で、建物の設計・建設費は安藤忠雄氏からの寄付だという。 中之島の中央公会堂も大阪経済界の大物だった岩本栄之助の寄付で建設されたというから、大阪に根付く、官ではなく民が街を作るという精神なのだろう。

 この図書館のエントランスに、青いリンゴのオブジェが飾られている。サミュエル・ウルマンの詩『青春』から着想を得て建物とともに製作したものだという。 "Youth is not a time of life; it is a state of mind 青春とは人生のある期間ではなく、心のありようなのだ" 60歳でも70歳でも、年齢など関係なく 心に希望を持っている限り青春だという。

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 時計の指導の続きがある。「やからな、お前らも若いんやから、目標をもたなあかんで。その目標を持っとる間は頑張れる。前向いてやらなあかんで。」
 癌で内蔵の摘出手術を受けた後でも、スタッフの誰よりもバイタリティにあふれていた。その青春真っただ中のボスを見て働いた。 事務所での経験を通して、何事にも元気に前向きに取り組めということを教えられたように思う。私も熟れず腐らず、一生、青春を生きていきたい。


* セクティコン, アンジェロ・マンジャロッティ, 1956年