遠足の行き先
遠足の行き先


 街中で散歩中の園児たちを見かける。保育士が先導し、二人一組で手を繋いで歩く、仲の良さそうな光景に和まされる。 行先はどこなのだろうといつも考えてしまう。

 大学院留学中、ロンドンの現代アート美術館、テート・モダンを訪れたときのこと、小さな子供たちが 抽象絵画や前衛的な彫刻の前に座り込んでいた。引率の先生が語りかける。
「これは何に見えますか?答えは無限にあります。想像することが大切なのです。」
 留学時に気づいたことだが、イギリスの人々はアートに対する理解やリスペクトが高い。 世界を代表するような充実したコレクションを持つ美術館や博物館が沢山あり、常設展はほとんどの場合、無料で観ることができる。 園児の遠足のみならず、若者のデート、年配の人々の休日ルーティンなど、何の気負いもなく普通に立ち寄る場所となっている。 日本では、そこまで日常的な場所とは認識されていないように思う。常設展の無料化も、とっつき易さのために有効だろうが、 これには政府の補助も必要だろう。

 日本でも魅力的な散歩の行先に出会ったことがある。いつだったか、出張からの帰路だったと思う。 地方空港から離陸する際、滑走路上の機内から、ふとターミナルビルに目をやると、屋上展望台から、 小さな子供たちがこちらへむかって手を振っているのが見えた。人数からすると、見送りとは考えづらい。 散歩でやってきたのだろう。まだ飛行機に乗ったことのない子供もいるはずだ。あの飛行機は、どこに飛んでゆくのだろう。 世界はきっと広いけれど、今いる自分の場所と繋がっている… そんなことを考えるのだろうか。 空港の展望台はほとんどの場合、無料で入ることができる。大切な人を見送る機会でもないと、中々立ち寄る場所ではないだろうが、 近くの幼稚園・保育園などにとっては、とても刺激のある行先だと思う。

 世界的な感染症の蔓延で、修学旅行が中止になるニュースを聞く。海外留学もままならない。 学生は、内向き志向に変わりつつあるらしい。普段の生活圏を出て、外の世界に触れる機会は重要ではないか。 たとえ近所だとしても、想像力を掻き立てられる遠足に出かけるのはどうだろうか。