時間の蓄積される場所
時間の蓄積される場所



 大学進学と共に実家を出てから久しいが、かつての自分の部屋に高校生の頃に貼ったバンドや映画のポスターが今でも残っている。 私の後に妹がその部屋を使ったはずだから、なぜ剥がされなかったのか不思議だが、今では、帰省の度に私がここに暮らした痕跡のように感じる。

 ハリー・ポッターの物語に、奔放な双子の兄弟フレッドとジョージが出てくる。 嫌気がさした学校に、いたずらで仕掛けた魔法であちこちを沼のようにしてしまう場面がある。 嫌味な先生が沼にはまり、どうすることもできない。対処しにやってきた優秀な教授が、ふむふむと頷いて、 ものの三秒で消してしまうのだが、「これはとってもいい魔法だった」と言い、学校の片隅に少しだけロープで囲って 「フレッドとジョージの沼」と立て看板を置いて残してしまうのだ。 こうして長い年月をかけて、奇想天外な魔法使いの学舎が出来上がるのかと考えると、とてもわくわくする。

 以前勤めた設計事務所は、代表である氏の初期住宅作品のあった敷地に建っている。 最初はその住宅を改修と増築を繰り返し事務所として使っていたようだ。 現在は完全に建て替わっているが、吹き抜けの位置や執務空間の配置など、元の建物の空間構成が継承された設計となっていた。

 一面を本棚に囲まれた4層分の吹き抜けに、実現したものも、そうでないものも、過去のプロジェクトの模型が所狭しと並び、 またダミアン・ハーストやクリスト、エルスワース・ケリーなど、氏と親交のある現代アーティストから直接寄贈されたという彼らの作品がいくつもかかっていた。 吹抜け下の氏の机のそばにはボクシンググローブがかけられており、まさに氏の人生そのもののような空間で、設計の仕事に励んだ。 非常に厳格でミニマルな空間ではあったが、そうした痕跡を蓄積していく包容力も同時に持ち合わせていた。

 地震大国である日本では、スクラップアンドビルトを繰り返してきた歴史がある。 未だに、ハウスメーカーや分譲マンションの広告にはどれも新品ピカピカの家が並び、これらの不動産価値は築年数に従い急激に落下していく。

 私は事務所での経験を通し、流れた時間に敬意を払うことを学んだように思う。 人の営みや記憶を蓄積し、時間が経つほどに魅力を増していく場所や建築を作りたいと考えている。