コーヒーと都会の空間
コーヒーと都会の空間


 中目黒にオープンしたスターバックスの新たな旗艦店、スターバックス・リザーブ ロースタリーを訪れた。 開店当初は大変な人だかりで入店さえままならない状況だったが、数ヶ月経ち、平日なら空席も見つけられる程度に落ち着いてきた。 とはいえ駅からかなり離れていることを考えると、衰えない人気ぶりがわかる。 店員は全国のスターバックスから公募・選抜されたエリート店員ばかりといい、接客力やコミュニケーション能力の高さにも驚かされる。

 私が高校生の頃、地元の愛媛県では松山市に一店舗しかなかったスターバックスは、都会の象徴だった。 センター試験は松山市に泊りがけで遠征する (試験会場が県内で一つだけというのも都会の人から驚かれる) のだが、同級生と 「試験が終わったら、スタバでコーヒーを飲んで帰ろう」と約束をした。 雑誌でしか見たことのなかった緑のロゴマークの紙コップで、うまくいけば数ヶ月後に始まるだろう遠い街での大学生活に思いを馳せたことを覚えている。

 今では日本中で1000店舗を超え、故郷のショッピングモールにまで店舗ができた。そこでは母校の制服を着た学生が、コーヒー片手に勉強をしている。 私が彼らの頃に感じた憧れなど、もうないのだろう。

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 コーヒーショップやカフェのことを、自宅でも職場でもない、第3の居場所という意味で、サードプレイスと呼ぶ。 サードプレイスは元々、会員制の社交倶楽部や地域住民の集会所など、特定の仲間たちと集まる場所のことを指したらしい。 より匿名性の高い集まりであるコーヒーショップやカフェをサードプレイスと呼ぶのは、非常に都会的だ。

 隣人も知らないままで成立する都会の生活は、ちょうど良い距離感を保ちながら共存するライフスタイルとも言えるだろう。 スターバックスの流行は、シアトルの薄口コーヒーが流行したというより、この匿名性の高い第3の居場所として、 現代人の感覚に受け入れられたということではないか。

 近年では、ノートパソコンなどを携え不特定多数の滞在先で仕事をするノマドワーカーの居場所としても需要が高い。 サードプレイスから職場に近づきつつあり、第2.5の居場所化と言える変化が進行中だと感じる。 私にとってはいつまでたっても、スターバックスコーヒーは、大人の味であり、都会の味だ。